東京高等裁判所 昭和61年(う)1761号 判決
被告人 株式会社ゲルマ医研 外一名
〔抄 録〕
そこで、原審記録を調査し当審における事実取調べの結果をも併せ検討すると、本件医療用具は、高純度のゲルマニウムを粒状に加工したものであって、昭和五五年三月一三日付55B第三一九号をもって厚生大臣から被告法人に対し製造の承認があったものであり、製造承認書によれば、本件医療用具の類別は「はり又はきゅう用器具」と、名称は「皮膚貼付型はり治療器(ゲルマ32、のちにザ・ゲルマ32に名称変更承認)」とされ、性能、効能又は効果として「貼付部におけるこり」との記載があり、一方、本件各文書は、被告人が本件医療用具合計六万七、九六四箱(この販売価格合計六億四、九四二万八、九五〇円)を被告法人の業務に関し販売するに際し各容器内に内包添付したものであって、右各文書の記載内容は原判決が詳細に判示するとおりであり、「症状別ゲルマニウム治療法の手引」は「症状別ゲルマニウム治療法のツボ」における「ツボ」という用語を「貼る位置」と置き換えるなど文言を一部修正しているものの、要するに、各文書とも肝臓障害、高血圧症、冷え症、便秘、胃炎等といった具体的な疾病ないし症状を掲げ、人体写真を用いてそのそれぞれにつき「ツボ」又は「貼る位置」を東洋医学上の名称と共に指示するかたわら、別に本件医療用具ははりやきゅうと同様に金属を肌に貼って痛みをやわらげ治療する電子針である旨、他に病因のある際は増量の必要がある旨などの総括的な説明文をも記載していて、全体としてみれば本件医療用具を指示箇所に貼れば掲記した肝臓障害等の疾病の治療ないし症状の改善に有効であるとの趣旨を表示しているものと認められる。
そして、本件医療用具につき、その効能、効果が「貼付部におけるこり」として製造承認されるまでの経過をみると、当初被告人は、その効能、効果として、こりの緩解のほか痛みの緩和及び血行の改善の二つの効能、効果についても承認を得ようと考えたが、痛みについては、申請前の事前相談において、厚生省の担当者から痛みの緩和の程度を臨床試験で客観的に証明することの困難性を指摘されて断念し、血行については、一応承認申請をしたものの、その申請書に添付した臨床試験の試験成績に関する資料が肩こりに関するものであったため、担当者から申請の撤回を示唆されてこれに応じ、残るこりについても、添付した臨床試験の試験成績に関する資料が肩こりについてであって、こり全般に関するものでなかったことが審査の際問題とされたが、結局「貼付部におけるこり」に対し効能、効果があるものとして承認されるに至ったこと、ただ、そのころ、ゲルマニウムが病気に有効であるという俗説が流布されていたこともあって、右承認の際、被告人は特に厚生省当局の要請により本件医療用具の性能、効能及び効果に関しゲルマニウムが関与している旨の表示、広告は一切行わない旨の誓約書を差し入れたこと、本件承認申請に際して、被告人が、本件医療用具を貼付する箇所はツボ(経穴)と称せられる部位であるとか、当該貼付部におけるこりの緩解が貼付部に対応する内臓その他身体各部に効果をもたらしその機能を正常化する効能、効果があるなどと申し述べた形跡は全くなく、本件医療用具にそのような効果が認められることを示す臨床試験の試験成績に関する資料を添付するなどのこともせず、したがって、この点に関する審査も行われなかったことが認められるのである。
ところで、薬事法が、同法一四条の規定による承認を要する物品等について承認を受けていない効能、効果を添付文書等に記載することを禁じている趣旨は、承認を受けていない効能、効果は、承認にあたって始めから審査の対象にならなかったか、そうでなければ臨床試験により確認されなかったものであるから、そのような承認を受けていない効能、効果を説明書等に記載すると、一般消費者を誤解に陥れ、正しい医療機会を失わせたり、無駄な出資をさせたりするおそれ(ちなみに、本件医療用具の標準小売価額は一〇粒入り一箱二万五、〇〇〇円とされている。)があるので、これらを未然に防止しようとすることにあるのはいうまでもなく、このような薬事法の趣旨目的に立脚し、更に既に述べたとおりの本件医療用具が製造承認されるまでの経過をも踏まえてみるならば、本件医療用具について承認を受けた効能、効果である「貼付部におけるこり」とは、その字義どおり、貼付予定の体表面の直下又はその周辺の筋肉のこりを指称するものと解すべきであることが明らかであり、一方、本件各文書の記載内容は、既述のとおり、肝臓障害や胃炎等にまで本件医療用具の効能、効果が及ぶとしているのであるから、それが厚生大臣が本件医療用具について承認した効能、効果の範囲を超えていることは明らかであり、結局、被告人は本件各文書に承認を受けていない効能、効果を記載したものと認められるのである。所論のように、本件医療用具の類別が「はり又はきゅう用器具」であり、名称が「皮膚貼付型はり治療器」であることから、本件医療用具の承認がツボの理論を前提とするものとして、その承認にかかる効能、効果の範囲を定めるにつき特別の考慮を払うことが要求されると解する余地はなく、このことが所論指摘のツボの理論を否定するものでも肯定するものでもないことは当然である。これと同旨に出た原判決の判断は相当であり、この点に関し審理不尽に基づく理由不備、法令適用の誤り及び事実誤認をいう論旨はすべて理由がない。
(小野 花尻 神作)